(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B)
(11)【公告番号】特公昭61−54390
(24)(44)【公告日】昭和61年(1986)11月21日
(54)【発明の名称】脱海草臭処理をした海草入りの洋菓子類の製造方法
(51)【国際特許分類第5版】
A23L 1/337 102
A23L 1/337
【発明の数】1
【全頁数】4
(21)【出願番号】特願昭59−22776
(22)【出願日】昭和59年(1984)2月13日
(65)【公開番号】特開昭60−168367
(43)【公開日】昭和60年(1985)8月31日
(71)【出願人】
【識別番号】000488353
【氏名又は名称】トキノ:(株)
【住所又は居所】東京都港区高輪4−10−18
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 荘能子
【住所又は居所】東京都板橋区赤塚新町3−xxx
(74)【代理人】
【氏名又は名称】代理人コード:7508
(外2名)
【特許請求の範囲】次の頁からクレームは始まります。
【特許請求の範囲】
1 食用可能な海草を水中で加熱し、次いで、この処理液から海草を分離し、この分離された海草を、改めて水中で、100℃の温度で酸臭を有しない食用酸性物質の存在下に加熱し、次いで、冷却下に保存熟成して、海草を軟化脱臭させ、この軟化脱臭された海草を、材料の一部として加えることを特徴とする海草入りの洋菓子類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
(イ) 産業上の利用分野
この発明は、海草類を原料とする食品の製法に関し、特に、例えば、スポンジケーキ類、クツキー類、その他の菓子、ミートローフ、その他の肉製品等の洋菓子類の製法に関するものである。
(ロ) 従来の技術
我が国は国土面積の割に長い海岸線を有し、海草が多量に得易いところから、各国に比し古くより著しく盛に食用とされ、歴史的経過と共に日本風の食品の風味に調和する調理法が確立されている。また、海草は日本料理の中で重要な材料となり、永年の経験から健康食品と信じられ、日本人の食生活に大きな役割を果している。
ところが、近年、外国との交流が盛になるにつれて、我が国の国民一般の食品に対する嗜好は、その影響を受けてかなり変化し、味、香りなどに関する感覚は西洋風に傾斜してきた。しかし、外国では海草類は食用とされることが比較的少なかつたため、洋風の調理方法はあまり知られておらず、一方今迄の和風の調理方法では海草は洋風の食品感覚に調和しにくいため食用が減少する傾向にある。
(ハ) 発明が解決しようとする問題点
その中でも特に大きな問題は嗅覚に関するもので、例えば、コンブ・ワカメ・アラメ・マツモ・モズク・ウミゾウメン・イギス・エゴノリ・オゴノリなど、和食では“磯の香り”という感じで、悪い評価は受けていないのに、洋食の感覚では調和せず違和感があるとされる場合が多く、また、例えば、ヒジキ・ホンダワラ・テングサ・ツノマタなど、和食でも必ずしも良い香りとされなくても、“磯くさい”という程度で一度は受け入れられてきたものが、洋食の感覚では“生ぐさい”という感じで忌避される。殊に洋食になれた若い人々ではこの傾向は著しい。
海草類は、最近の健康医学の角度から見ると、動物性脂肪などの多い西洋風の食生活の弊害を防ぐ上で極めて有効な動物繊維(ダイエタリー・フアイバー)を主成分とし、またビタミンAを中心とするビタミン類、ヨウ素、カルシウム、などの有用な成分を含有するものが多い点から、上記の如き食生活の変化の傾向に合わせて一層多く食用されるのが望ましいにも拘らず、嗜好、調理法の点からむしろ逆行的な傾向にあるのは問題であり、一般に資源の少ない我が国で折角このように有用で豊富な資源がありながら、充分に活用し切れないことは、解決を要する重大な事であると考えられる。
(ニ) 問題点を解決するための手段及び作用
本発明者は、この見地から、前記の如き海草類が近代的嗜好に適合しない点、特に嗅覚に関する性質の改善のため、多数の実験による研究を重ねてきた。その結果、食用可能な海草に食用酸性物質を加えて処理することによつてこれを改善し、食品としての適性を損うことなく、前記の海草臭を、実用上支障ない程度に減少することに成功したものである。
すなわち、本発明は、食用可能な海草を水中で加熱し、次いで、この処理液から海草を分離し、この分離された海草を、改めて水中で、100℃の温度で酸臭を有しない食用酸性物質の存在下に加熱し、次いで、冷却下に保存熟成して、海草を軟化脱臭させ、この軟化脱臭された海草を、材料の一部として加えることを特徴とする海草入りの洋菓子類の製造方法にある。
本発明において、「食用可能な海草」とは、前述の海草およびその近縁種を中心とする、褐藻および紅藻の植物門に属するものである。但し、このうち全く食用に適しないもの、および極めて優れた香りを有するもの、例えばアサクサノリなど、香りを失わせることが望ましくないものは、これより除外される。しかし、従来はあまり食用に供されなかつたものであつても、この発明により、または他の方法により、食用に供される可能性のあるものは含む。
なお、これらの海草の種類や保存等の状態に応じて、水洗・水漬け・塩抜き・夾雑物の除外は勿論、細断・磨砕などの前処理を行うのが好ましい。
また、本発明において、「食用酸性物質」とは、従来より食用に供されてきた自然食品、および食品衛生法に基く食品添加物の規格基準に合致した合成物質の両者の中で、かなり強い酸性を示す物質である。
しかし、これらの酸性を示す物質の中、酢酸等のように、揮発性を有し、100℃付近の温度において酸臭を発する酸および、この酸を酸性発現の主成分として含有するものは除かれる。それは、後述する加熱・熟成の段階で、酸成分の揮散による減少のため処理効率が悪いこと、および、食事および調理のとき特有の臭いを発し、折角海草臭を除いてもこの代りに新たに問題になり易いためである。
したがつて、本発明における食品酸性物質として最も適しているのは、果実酸、即ち、クエン酸・リンゴ酸・酒石酸・ブドウ酸など、および、これらを含有するものであり特に、これらを含有する果実を使用すれば、果実特有の優れた風味を同時に付加することができるので好ましい。柑橘類はクエン酸を、プラム類・あんず類・梅等はリンゴ酸・クエン酸・酒石酸を、ブドウは酒石酸・ブドウ酸・リンゴ酸を、いちごはリンゴ酸・クエン酸・酒石酸を、それぞれ主として含有するといわれ、この代表的な例である。
海草に対する酸性物質の適当な混合比は、海草の種類、酸性物質の種類、洋菓子類の種類、および嗅好などによつてさまざまではあるが、海草については乾燥したもの、また酸性物質については、それが含有する酸性発現の原因となる化学成分とに、それぞれ換算した重量比で、例えば2〜20%の範囲であり、特に10%前後を加えるのが好ましい。
この混合操作だけでは直ちに海草臭が消失することはなく、加熱により海草臭の減少は迅速に進行する。加熱しなくても、腐敗防止のため冷却して保存しておくだけでも、熟成効果で一応海草臭の減少は進行するが、その速度は加熱する場合に比し著しく遅く、この処置だけでは実用上満足し得る迄海草臭を減ずるには、極めて長期間を要する。従つて加熱、熟成のうちいずれか一方の処置のみでも、一応は本発明の目的は遂げられる訳ではあるとしても、実際の操業では先ず加熱処置を行い、その後熟成期間を取るのが良い場合が多く、これでも除臭不充分の場合はこれを繰返すなど、通常は両処置を併用する。
(ホ) 実施例
以下に示す実施例を参照して、本発明の実施の態様の例を説明するが、以下の説明及び例示によつて本発明は何ら限定されるものではない。
次にこの発明の海草の軟化脱臭処理工程例のいくつかを示す。
例 1
乾燥ひじき100Kgをよく水洗し、水に約30分間漬けて吸水させ、再びよく水洗し、沸とうした湯約500■の中に入れて加熱を続け、再び沸とうしてから約10分間おだやかに加熱沸とうを続け、煮汁を捨て、水で洗い水切りをする。以上は前処理である。
レモンの果汁約50■を加えて加熱し、沸とうし始めてから約30分間100℃付近でおだやかに加熱を行い、冷却後約3℃で2日以上保存熟成する。この後更にレモンの果汁を約50■加えて、同様の加熱・沸とう・冷却保存熟成の処置を行う。この処置終了品は、使用するまで約3℃以下の温度で貯蔵する。(以下の実施例における処置終了品も、本例と同様に貯蔵する。)
例 2
乾燥ひじきについて、前記実施例1と同量に同じ前処理をしたものについて、青梅の種子を除いたもの約100Kgを加え、加熱して沸とうし始めてから約30分間、100℃付近で、おだやかに加熱し、冷却後約3℃で約2週間以上保存熟成する。
例 3
乾燥こんぶ100Kgを水洗し、水に約30分漬けて吸水させた後水を切り、レモンの果汁を約50■加え、加熱して沸とうし始めてから約20分間100℃付近でおだやかに加熱し、冷却後約3℃で約1週間保存熟成する。
例 4
塩漬けわかめ約200Kgをよく水洗し、塩分をほぼ全部除去して水を切り、食品衛生法に基く食品添加物の規格基準に合格したリンゴ酸約8Kgと水約100■を加え、加熱して沸とうし始めてから約20分間100℃付近でおだやかに加熱し、冷却後約3℃で約1週間保存熟成する。
例 5
あらめ乾燥品約100Kgをよく水洗し、水に約30分間漬けて吸水させてから再び水洗し、沸とうした湯の中に入れ加熱を続け、沸とうし始めてから約10分間ゆでて、煮汁を捨て水で洗つて水切りをし、食品衛生法に基く食品添加物の規格基準に合格したクエン酸約10Kgと水約100■を加え、加熱して沸とうし始めてから約30分間100℃付近でおだやかに加熱し、冷却後約3℃で約2週間保存熟成する。
例 6
上記実施例5におけるあらめ乾燥品に代えて、ほんだわら乾燥品を、クエン酸10Kgに代えて酒石酸約15Kgを、それぞれ用いて他は同様の処置を行う。
以上の例により製造により得られた軟化脱臭した海草は、そのままで食用することも不可能ではないが普通は海草入りの、例えば、スポンヂケーキ類、クツキー類、その他の菓子、ミートローフ、その他の肉製品等の洋菓子類等の食品を作る材料の一部として用いられる。この混合量は、様々であるが、前記洋菓子類の食品全体に対する重量比で、普通3%から50%である。
また、以上の例により軟化脱臭された海草は、洋菓子等の食品に混合する前に、普通は中和などの処置をしないでも、出来上りはまろやかな味となる。しかし非常に強い酸の場合や、酸の添加量が多い場合、本発明による軟化脱臭された海草の混合量が多い時は重曹などで中和を要する場合もある。
例えばスポンヂケーキに適用した場合は、従来より普通最も好まれるレモンエツセンス、メロンエツセンス、ブランデーなどによる着香により、従来と変ることなく作ることができ、またミートローフに適用した場合も、従来の香辛料で同じ結果が得られる。
一方、酸性物質として芳香や良い風味のある物質、例えば果肉・果汁等を用いたときは、この芳香その他の風味は最終食品にかなり残ることもあり、それが処理によつてかなり変化した場合でもそれなりの良い風味を副える場合も多く、むしろ新しい優れた風味を創り出すこともできる。
従つて以上の事を総合して、極めて広い範囲の洋菓子類に良く適合し得るものである。
その中でも特に、油脂・糖分など、いわゆる高カロリー成分の多い例えば、スポンヂケーキ類、クツキー類、その他の菓子、ミートローフ、その他の肉製品等の洋菓子類に、添加、配合するのに適し、海草の低カロリーで、かつ、腸内で有害物を吸着し、便通を多くするなどの優れた特性は、これらにさつぱりとした風味を与え、また食後の弊害を軽減し、後味のよい健康食品とする。
(ヘ) 発明の効果
また、本発明により軟化脱臭された海草は、もとの海草より著しく軟かくなるので、従来の調理法では固かつたりざらざらして食べにくかつた種類の海草でも舌ざわりの良いものになり、一般に他の材料と混和し易い。従つて物理的な点から最終食品の風味を損うことはない。
また、本発明により軟化脱臭された海草は、製造工程で加える酸性物質として無臭のものを用いた時は、固有のにおいがほとんどないので、例えば、スポンヂケーキ類、クツキー類、その他の菓子、ミートローフ、その他の肉製品等の洋菓子類に最適の香りをそのまま維持することができる。